こんにちは!マレーシアに滞在中のKoniです。
西洋絵画の人気テーマの一つに『パリスの審判』があります。ギリシャ神話のエピソードで、『トロイア戦争』のきっかけになった出来事を表しています。
『パリスの審判』は裸の美女3人が出てくる構図が人気を博し、沢山の画家がこの主題を描きました。特に知られているのがルーベンスとクラナッハの『パリスの審判』ではないかと思います。
今回ご紹介するクラナッハ(クラーハナとも言います)は特にこのテーマがお気に入りだったようで、細部が異なる同テーマの作品を沢山書いています。代表的なバージョンだけでも10作品前後残っているので、どれだけ好きなテーマだったか分かりますね!
今回はメトロポリタン美術館展に出品されていたクラナッハの『パリスの審判』(1528年頃制作)について解説します。
目次
『パリスの審判』の注目点
どうしてこの作品を選んだか? 理由は、定番から外れている面白いポイントが沢山あるからです!
具体的には・・
- イケメン王子のはずのパリスが、おじさん!
- イケメン神のはずのヘルメスが、おじいちゃん!!
- 三美神の見分けが付かない!
- ヴィーナスだけ推測できるものの、他の二人は判定不可能!
- 黄金の林檎のはずが、透明な水球にアレンジされている!
など。どういう事なのか見ていきましょう!
『パリスの審判』のあらすじを知ろう
どんな話なの?
絵の状況を簡単に解説するなら、パリス王子が三人の女神の中から一番美しい人を選ぶシーンです。「一番美しい人に林檎を渡す」という設定なので、これから選んで林檎を渡すところ。
この場面に至るまでの話が面白い
そもそも、パリス王子はどうして美女選びをする羽目に?それには以下のようなエピソードがあります。
ギリシャ神話が「英雄の時代」になり人間が増えすぎた世界。最高神ゼウスはどうにかして人間の数を減らしたいと考えていました。
そんな中、ギリシャ神話の英雄(人間)ペレウスと海の女神テティスの結婚式が行われます。式は盛大に開催され、神々はみな招待されましたが、【不和の女神エリス】だけは敬遠されて招待されませんでした(そりゃそうだ)。
それに憤慨したエリス、復讐として「最も美しい人におくる」と書いた金の林檎を招待客の中に投げこみました。すると「私が一番美しい」と自負する三人の女神【ヘラ、ヴィーナス(アフロディーナ)、アテナ】の中でたちまち言い争いに・・!
これに困ったゼウスは(ややこしい問題を押し付けて、人間の口減らしもできるチャンス!)と考え、神々のメッセンジャーであるヘルメスに林檎を持たせ、それをトロイア国の王子であるパリスに渡すように命令します。
ちなみにヘラはゼウスの正妻なのでゼウスがヘラに与えても良さそうなものですが、そうすると「身内びいきだ!」と言われそうだし、他の二人から恨まれることは必至です。とはいえ奥さん以外を選ぶ選択肢もあり得ない…誰を選んでも茨の道ということで、パリス王子に無茶振りしたように思います。
そんな訳で林檎を手にしたヘルメスと三人の女神がパリスの元を訪れ、パリスは美女選びに巻き込まれることに。
三人の女神はそれぞれ違った賄賂でパリスを誘惑します。三人があげると約束したものがこちら↓
- ヘラ:世界一の権力
- アテナ:世界一の名声
- ヴィーナス:世界一の美女
皆さんならどれを選びますか?
パリス王子は…「世界一の美女」を選びました(やっぱりか)。ということで、林檎はパリスからヴィーナスへと渡されます。
ヴィーナスは約束通りに世界一の美女を与えるのですが、それはスパルタ国の王メネラオウスの王妃ヘレネでした。トロイア国の王子がスパルタ国の王妃を略奪したために、トロイアとスパルタは戦争になります(=トロイア戦争)。
…というのが大まかな流れです。
【注意】ストーリーにはいくつかのバージョンが存在します。ここに記載したのはその中の一つだと思ってください。
『パリスの審判』、誰がだれ?
画家を問わず、西洋名画の『パリスの審判』で登場するのは大体5人か、キューピットを入れて6人です。この『パリスの審判』に登場するのは6人で、そのうち4人は誰が誰か判別することができます。
パリス(人間)
トロイア国の王子。一般的に若い男性として描かれることが多いですが、この作品ではおじさん化しています。眠っているところを叩き起こされて、まだ状況が分かっていない表情ですね。
ヘルメス(神様)
神様の伝令役。羽が付いた帽子、靴、杖が目印。一般的に若い男性として描かれますが、この作品では老人として描かれています。手に持っているのは「黄金の林檎」ですが、この絵では「透明な水球(水晶?)」として描かれています。
ヴィーナス(神様)
オリュンポス十二神の一人で、愛を司る女神。愛といっても長続きする愛ではなく、情熱的で短期的な愛の方です。なので、結婚と貞淑の女神であるヘラとは元々相性が悪い気もします。
ヴィーナスは子供であるキューピットとセットで描かれることが多いです。この絵では、左上からキューピットが狙いを定めていることから、この女性がヴィーナスであることは間違いないと思います。
キューピット(神様)
ヴィーナスの子供。目印は弓で、恋に落ちる矢と、嫌いになる矢の2つを持っているイタズラ好きの子供です。この絵では、ヴィーナスと思われる帽子をかぶった女性に狙いを定めています。
ヘラ(神様)
オリュンポス十二神の一人で、最高神ゼウスの正妻。結婚や貞操を司る女神。孔雀が目印です。
二人並べて「?」としたのは、二人の女性のどちらがヘラでどちらがアテナなのか、全く手がかりがないからです。
一般的には、『パリスの審判』を描いた絵画は、3人の目印(アトリビュートといいます)がそれぞれ描かれているので判別できるのですが、クラナッハの『パリスの審判』はほぼ同じ髪型、装いの女性が二人いるだけで手がかりが何もないのです。なので❓にしました。
アテナ(神様)
オリュンポス十二神の一人で、戦いと知性を司る女神。武器や甲冑が目印です。
ヘラとアテナがどっちか分からないのがポイント
という訳で、この絵の最大の見どころは、ヘラとアテナの判別ができない点だと思います!
伝統的には誰が誰か分かるように描かれるのが定番なので、クラナッハはわざとこのように描いたとしか考えられません。
伝統に倣いたくなかったのか、鑑賞者に(どっちなの…)と考えさせてこの作品に参加させるのが目的だったのかもしれません。ちょっと意地悪な、一筋縄でいかない感じが好きです!
分かりやすさ抜群のルーベンス
ちなみにルーベンスの『パリスの審判』を見てみれば、その分かりやすいさは一目瞭然。アトリビュートが一緒に描き込まれているのでそれさえ知っていればすぐに分かります。
クラナッハ『パリスの審判』、他のバージョン
クラナッハが描いた他のバージョンはWikipediaにまとめられています。見比べてたり、お気に入りのバージョンを探してみるのも楽しいですよ!
いかがでしたか?
この記事を読んだ方に、西洋絵画を読み解く楽しさが伝われば嬉しいです。
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