イタリアからこんにちは!ヨーロッパでノマド中のオンライン講師コニ(@koni_bali)です。
先週までハンブルクに滞在していました。もちろん『ハンブルク美術館(ドイツ語: Hamburger Kunsthalle)』に行ってきましたよ!見どころ作品を丸っと紹介します。
目次
オンラインチケットを購入
オンラインチケットは公式サイトから購入します。
ハンブルク美術館 公式サイト(英語) にアクセスし、「Visit」→「BUY/RESERVE NOW」のボタンから販売サイトへ。入場料は大人 14€ です。円安のせいで2,000円に。ぐぬぬ… しかし背に腹は代えられません。
日付を選択し、クレジットカードまたはPayPalで支払いをします。時間帯の指定はなく、その日であればいつでも入場可能です。支払い後、すぐに領収書とEチケット(PDF)がメールに送られてきました。
こちらが「支払い完了」のメール⬇︎
こちらが添付されていたPDFチケットです⬇︎
これをダウンロードしておき、当日受付で表示します。印刷する必要はありません。
見どころ作品
アレオパゴス会議のフリュネ(ジャン=レオン・ジェローム)
英語:Phryne before the Areopagus
制作:1861年
参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Phryne_before_the_Areopagus
古代ギリシャの実話を描いた歴史画。不敬虔を理由に裁判にかけられたフリュネ。弁護人であるヒュペレイデスが陪審員団の前でフリュネの衣服を剥ぎ取って彼女の裸を披露にすると、フリュネは無罪となった…というエピソードを描いています。
アレオパゴス会議とは?
古代ギリシャの政治機構の一つ。古代ローマにおける元老院のような役割でした。
フリュネとは?
古代ギリシアの伝説的なヘタイラ(高級娼婦)の女性です。
ヤコブとラケルの出会い(ウィリアム・ダイス)
英語:Jacob meeting Rachel
制作:1853年
参考:創世記 29 JLB – ラケルとの出会い – Bible Gateway
旧約聖書の創世記 29章のエピソードを描いた宗教画です。ヤコブは旅の末にラケルに出会い、一目惚れ。ラケルに駆け寄って口づけをしようとする瞬間です。頬をピンク色に染めてうつむき、恥じらっているラケルの表情がとても可愛いです。
トロイのヘレン(ガブリエル・ロセッティ)
英語:Helen of Troy
制作:1863年
参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Helen_of_Troy
ギリシャ神話「英雄の時代」のトロイ戦争から。戦争にきっかけとなった世界一の美女ヘレンを描きました。モデルは当時のロセッティの恋人アニー・ミラーだと言われています。
仮面がある静物(ジェームズ・アンソール)
英語:Still Life with Masks
制作:1896年
参考:ジェームズ・アンソール – wikipedia
展示室の中にあってひときわ個性を放っていました。ハンブルク美術館に一点だけあるアンソールの作品です。遠目からでも一目でアンソールと分かりました。
描かれているものは沢山の道化、老人、奇妙なマスク、日本のものと分かる「福笑い」のような女性の顔が描かれた壺(茶釜?)、二枚のトランプ、ヴィーナスとキューピット像、絵筆、絵の具を塗りたくったパレット、着物の女性が3人が描かれた急須など。明るいのに暗く、鮮やかなのに死を感じさせる絵です。
マドンナ(エドヴァルド・ムンク)
英語:Madonna
制作:1901年
ハンブルク美術館はムンクが充実していました。この作品のタイトルは「マドンナ」=聖母マリア ですが、聖母マリアっぽさはどこにもありません。現実に存在した女性を描きながら、女性に対する憧れや崇拝の気持ち、ムンクの理想の女性像を織り交ぜて描いたような印象を受けます。モデルは誰・・・? 諸説あるようですが、友人の女性を描いた説、お気に入りのモデルを描いた説などがあります。
桟橋の少女(エドヴァルド・ムンク)
英語:Girls on the Pier
制作:1895年
陰鬱とした暗さが印象的。明るい服の少女たちを描いているのになぜか暗いです。背を向けた二人に対してこちらを向いている一人の少女。ムンクの孤独が心が表れているようです。画面左側の海には建物が水面に反射していますが、それも重々しく暗い印象です。
横たわる裸婦(エドヴァルド・ムンク)
英語:Reclining Female Nude
制作:1914年
うつ伏せになり顔を見せない女性。ムンクの女性への屈折した感情が表現されているようです。
木陰で休憩 ポントワーズ(カミーユ・ピサロ)
英語:Resting Beneath the Trees near Pontoise
制作:1878年
フランス印象派の画家、ピサロの作品です。ピサロといえばセザンヌの師匠としても知られていますね。ポントワーズはフランス中央部にある街の名前です。
トウモロコシ畑 アルジャントゥイユ近郊(アルフレッド・シスレー)
英語:The Cornfield (near Argenteuil)
制作:1873年
こちらも印象派のシスレーです。他の印象派メンバーが徐々に画風を別の路線に変えていったのに対して、シスレーは印象派を貫き通しました。アルジャントゥイユはパリの北西にある地区のことです。
ナナ(エドゥアール・マネ)
英語:NANA
制作:1877年
参考:https://www.musey.net/8891
1877年のパリのサロンに出品拒否された作品。「NANA」という名前が当時の売春婦の一般的な源氏名だったことから高級娼婦であると言われています。サロンに拒否されたのも、娼婦を描くなど不道徳である、という理由からだそうです。需要があったから供給があったのにね…。
ラタポイル(オノレ・ドーミエ)
英語:Ratapoil
制作:1851年
風刺画家、彫刻家として知られるドーミエ。この奇妙なお爺さん「ラタポイル」はドーミエが創作した架空の人物で「軍事主義者でナポレオン派の人物」という設定でした。ドーミエはこのキャラクターの彫刻を幾つか残しており、ハンブルク美術館のほか、パリのオルセー美術館でも見ることができます。
霧海の上の放浪者(カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ)
英語:Wanderer above the Sea of Fog
制作:1818年
ドイツのロマン主義を代表する画家で、風景画に寓意を込めた作風で知られています。「霧海の上の放浪者」はフリードリヒの代表作であり、ハンブルク美術館の目玉作品です。
日本語では『雲海の上の旅人』という名前で知られるこの作品ですが、個人的には少しニュアンスが違うのでは?と思っています。ドイツ語の題名『Der Wanderer über dem Nebelmeer』を英訳すると『Wanderer above the Sea of Fog』です。
Wanderer は「歩き回る人、さまよう人、放浪者」という意味なので、「旅人」とは少しニュアンスが違うと思います。なので、本記事では「霧海の上の放浪者」と記載しました。
氷の海(カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ)
英語:The Sea of Ice
制作:1823年
フリードリヒのもう一つの代表作です。自然の厳しさの中にも、ただの風景画とは違う神秘性や宗教性が感じられます。
マダム ヘンリエット(オーギュスト・ルノワール)
英語:Madam Henriot
制作:1882年
参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Henriette_Henriot
ヘンリエットとはフランスの女優兼モデルでルノワールのお気に入りだった女性です。ルノワールとヘンリエッとは親しかったとされていますが、特別な男女関係を持ったという説はありません。
洋梨と葡萄(モネ)
英語:Pears and Grapes
制作:1880年
モネが描く静物画は新鮮。額縁の重厚さもあってか重々しさを菅んじる静物画です。白いクロスの描き方、手前にある存在感のあるりんごのタッチに注目してみてください。
聖母マリアと聖ヨハネの間で悲しむ男(ルーカス・クラーナハ)
英語:The Man of Sorrows between the Virgin and Saint John
制作:1540年
中央の男性はキリストで間違いありませんが、タイトルには「The Man」と書かれていたため、和訳でも「男」としました。
聖母マリアは白と緑の服、ヨハネは鮮やかな赤の服を着ていて、白と赤の対比が目立ちます。その二人に挟まれたキリストは、お腹にロンギヌスの槍の傷跡があることから「もう死んでいる」状態のはずですが、目は悲しげに開かれ、頭はマリアの方へ傾けられています(頭の傾きがヨハネとほぼ同じ点に注目してください)。キリストが腰掛けている長方形のものは棺だと思われます。
カリタス(愛)(ルーカス・クラーナハ)
英語:Caritas
制作:1537年
「カリタス」はラテン語で「愛」を意味します。英語「Charity(チャリティ)」の語源になった言葉で、「愛、人類愛、アガペー」を意味します。
そんな無償の愛を意味するタイトルですが、クラーハナが得意としているのは「ファム・ファターム」=運命の女。旧約聖書のイブ、サロメ、ユディットなどの女性を悪女っぽく描くのが得意な画家です。そのため、無償の愛を具現化しているこの女性もどうしても悪女に見えてしまいます…。この主題の絵をクラーハナに依頼することがそもそもミスマッチかと。もっと毒気のない愛らしい画風を得意とする画家の方が向いていたのではないでしょうか。
辺獄のキリスト(ヒエロニムス・ボス)
英語:Christ in Limbo
制作:不明
ボスがあると思っていなかったので興奮でした!上のクラーハナと違ってとてもボスらしい作品です。
「辺獄(英語:Limbo)」はカトリックの教義に登場する世界で、「原罪を持ちながら死んだが、永遠の地獄に行きには定められてはいない人間が行き着く場所」と考えられています。地獄とは違うので注意です。地獄に落とすほどではないけど償っていない罪がある人が行く場所ですね。(ワンピースにも出てきました!)
救世主キリストが生まれる前に死んだ人々は、無条件に全員辺獄に行ったことになっています。アダムもイブも、モーゼも、ダビデも全員です。キリストは死後、彼らを救うために辺獄へ降りたというエピソードがあり、それを「キリストの辺獄降下」と呼びます。聖典の一部である「ペテロの手紙」や「エフェソの信徒への手紙」に記載されています。
虎と蛇(ドラクロワ)
英語:Tiger and Snake
制作:1854年
代表作『民衆を導く自由の女神』で知られるドラクロワは、フランスロマン主義を代表する画家です。ロマン主義の画家が動物の戦いを描くと、こんなにダイナミック、ドラマチックに仕上がるのですね!
イブ(アンリ・ルソー)
英語:Eve
制作:1907年
ルソーのために「素朴派」というジャンルができたほど、生涯独自路線を貫き通したルソーの作品です。ルソーにしては珍しい宗教画。草木をモチーフにした額縁がマッチしています。
ギターを弾く男(パブロ・ピカソ)
英語:Man with Guitar
制作:1918年
ピカソもありました。ピカソは一生のうちに何度も画風が変わっていますが、ピカソ分類では「総合的キュビスムの時代」に描かれた作品です。また、同年、貴族出身の女性オルガと結婚しています。この作品では男性もギターも分解され、再構成されていますが、「何を描いてるのか全然意味が分からない」ほどではなく、元の形状を留めています。パッと見ると抽象画のように見えますが、あくまで具象画の作品です。
モンキーフリーズ(フランツ・マルク)
英語:Monkey Frieze
制作:1911年
馬を愛したフランツ・マルクですが、今作ではお猿さんを描いています。また、美術における「フリーズ」とは、浮彫りやパターン化した絵画を意味します。フリーズという名前が付いた作品ではクリムトの「ベートーベン・フリーズ」が有名です。
アラビア人墓地(ワシリー・カンディンスキー)
英語:Arabian Cemetery
制作:1909年
カンディンスキーもあるなんて!アラビア人墓地を鮮やかな色彩で描いていますが、カンディンスキーの絵は主題(何を描いているか)はあまり関係なく、色彩そのものを楽しむのがおすすめです。カンディンスキー本人がインスピレーションを得たように、絵を逆さまにしてみたり、角度を90度回転させて眺めてみるのも面白いですよ。
思ったより充実していました
ハンブルク随一の美術館ですが、それほど広くはなくこじんまりしています。展示作品は古典から近代までかなり幅広く、この幅広さが最大の特徴だと思います。説教くさい宗教画だけでなく、ルソー、フランク・マルツ、カンディンスキーなど色彩鮮やかな近代絵画もあるので、絵に詳しくない人も単純に絵そのものを楽しめると思います。
所要時間2時間でギリギリ全部見れました。欲をいえば3時間、休憩を挟むなら4時間くらいゆっくりしたいです。
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