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『メロードの祭壇画 / 受胎告知』ロベルト・カンピンを解説

カンピンという名前はあまり知られていませんが、この作品に見覚えがある!という方は多いと思います。遠近法、厳格さ、固さが特徴的な15世紀の受胎告知です。

西洋名画の中には『受胎告知といえば、あれとあれとあれと…』と出てくる有名作品が幾つかありますが、これはそのうちの一つだと思います。マリアの赤い衣装と、それに対比する天使の白い衣装がとても美しい作品ですね。

絵画情報

🔹作者 伝ロベルト・カンピン
🔹制作 1425年 – 1430年頃
🔹所蔵 メトロポリタン美術館

まずは簡単に解説

『メロードの祭壇画』の受胎告知

14世紀の初期フランドル派の画家、カンピンが描いたと言われる『メロードの祭壇画』の受胎告知です。左・中央・右の3つの部分から成る三連祭壇画で、左右の絵は蝶番でパタンと閉じれるようになっています。

この絵は教会や修道院からではなく、個人からの注文で描かれました。左には絵の依頼主である女性が、中央には受胎告知の場面が、右にはイエスの父親である聖ヨセフが道具を作っている場面が描かれています。

作者のところに「伝ロベルト・カンピン」と書いたのは、カンピンではなく助手が書いた説があるからです。この絵を所蔵するメトロポリタン美術館の公式見解では「ロベルト・カンピンと助手の作品」であるとされています。

受胎告知とは?

新約聖書に書かれているエピソードの1つ。
処女マリアの前に天使ガブリエルが降り立ち、マリアが聖霊によってキリストを妊娠したことを告げ、またマリアがそれを驚きながら受け入れるシーンです。

依頼主が女性という珍しいパターン

夫婦が依頼した宗教画は見たことがありますが、女性が単独で発注し、絵の中に描かれている作品は私はこれ以外に知りません。隣に男性が描かれているので「カップルじゃないの?」と思いますが、この男性は夫ではなく従者という設定だそうです。

私が気になるポイント

美しく、そして気になるポイントがたくさんあるこの絵!

窮屈な部屋

GoProで撮ったような広角で、高めの位置から俯瞰されている窮屈な部屋。部屋が異常に狭く、固い遠近法が適用されています。部屋の内装は当時の中流階級の住宅を模したそうです。

歪んだテーブル

テーブルの歪み
丸テーブルがやたら主張してきます

ここで気が付くのは、画面全体がきつい遠近法で描かれているのに、丸いテーブルだけがそれに従っていないことです。

この遠近法に従うならテーブルの面はこんなに広くこちら側に見えていないはずです。面が縦長の楕円形のように見えているということは、テーブルが傾いている(奥が高くて手前が低い)ということではないでしょうか。

そのため、花瓶や燭台、聖書はずるずると手前に動いてきそうですし、聖書はテーブルの縁から落ちそうにも見えます。

テーブルの上のアイテム

テーブルの上に置かれた小物にもひとつひとつ意味があると考えられます。分かりやすいのは「花瓶とお花」。「花瓶(杯)」はマリアの胚(子宮)を表すモチーフです。白い百合は、純潔を表すマリアのアトリビュート(そのキャラクター特有のシンボルや持ち物のようなもの)で、多くの受胎告知の絵画に登場します。

ガブリエルに気付いていないマリア

大天使ガブリエルが降り立ちイエスの懐妊を告げているのにまるで聞いていない様子のマリア。スルーしているのではなくw、天使がまさに声をかけようとしている瞬間を描いているのだと思います。

ほとんどの「受胎告知」では、マリアがガブリエルのお告げに驚いているポーズやお告げを受け入れる敬虔なポーズが描かれているので、口が開いているガブリエルに対して、静かに聖書を読んでいるマリアの姿が面白く感じられます。

ガブリエルの口元
何かを言おうと開いているガブリエルの口元

衣装の質感とシワ

天使とマリアの衣装の厚みがあってゴワゴワした固そうな質感。その質感でパタパタと折られた固いシワ。そのシワから生まれる影と光の描かれ方に目が行きます。

マリアの服の下には膝があることがはっきり分かりますし、服の下から出ている膝頭を中心に、白い光が周辺に広がっている様子も印象的です。

衣装の質感とシワ
このシワとたたみ方に見入ってしまいます

今読んでいる「セザンヌ物語」では、セザンヌの静物画の白いナプキンの描写と、この受胎告知の衣装の描写との類似性が指摘されていました。なるほど、言われてみたらセザンヌのナプキンに見えてきます!

セザンヌ「リンゴとオレンジ(Pommes et oranges)」
セザンヌ「リンゴとオレンジ(Pommes et oranges)」

厳密な遠近法

狭い場所が嫌いな私には見ているだけでソワソワしてくる、狭い部屋の中を厳密な遠近法で描いた描写が気になります。

遠近法の中でも「一点遠近法」という技法で描かれているので、遠近法が収束する点=消失点を探してみました。すると丸いテーブルの奥、壁にかかっている白い布と赤いタオル掛け?のあたりに消失点が見つかりました。

遠近法の消失点

白と赤の奇妙さ

白と赤の奇妙さ

消失点の近くには、目を引く白い布があります。この青い横線の模様が入った白い布は、「タッリート」または「タリット」と呼ばれる、ユダヤ教の礼拝時に男性が着用する、布製のショールです。

このショールは強烈な赤色のタオル掛けにかけられていますが、白と赤のコントラストが奇妙です。白はマリアの純潔、赤はイエスの受難を暗示していると解釈することもできそうです(私見)。

真っ赤なタオル掛けの右側の菱形の部分をよく見ると男性の顔が描かれているのが分かります。これは神様?

さらに、タオルの左側に吊り下げられている金属製のお鍋も気になる存在です。何を意味しているんでしょうか・・?

以上、気になるポイントがいっぱいの『メロードの祭壇画 / 受胎告知』でした。

参考リンク:Wikipedia – メロードの祭壇画

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