こんにちは!ノマド日本語教師のコニ(@koni_bali)です。
「このバッグ、軽いし、可愛いし、雨にも強いし、とても気に入ってます!」
この「〜し」、初級のうちに教える定番の接続表現ですが、実はその使い方や文のニュアンスには想像以上に奥行きがあります。
本記事では、日本語教師さんや日本語に興味がある方向けに「〜し」の文法的な機能、接続できる語の種類、導入タイミング、そして「〜て」や「〜から」などの類似表現との違いを整理してみます!
目次
「〜し」の基本とその働き
「〜し」は、接続助詞または並列助詞に分類される表現で、文と文をつなぐときに使われます。
「〜し」の最大の特徴は、複数の情報・理由・感情などを柔らかく並べること。
口語でよく使われ、「〜だから〜」のように明示せず、含みや余韻を持たせるのが特徴です。
「〜し」の用法は3つ+番外編
① 理由の列挙(因果的並列)
判断・行動の背景となる複数の理由を並べます。
📘 例:このアパートは駅から近いし、家賃も安いし、すぐ決めました。
👉 (形容詞+し、形容詞+し)
📘 例:風邪っぽいし、頭も痛いし、今日は休もうと思います。
👉 (形容詞+し、形容詞+し)
② 性質・特徴の列挙(付加的並列)
物事の状態や評価を、中立目線で説明的に並べます。客観寄り。
📘 例:このバッグ、軽いし、水に強いし、パソコンも入る!
👉 (形容詞+し、形容詞+し、動詞+し)
📘 例:彼女は優しいし、仕事もできるし、気が利くよね。
👉 (形容詞+し、動詞+し、動詞+し)
③ 感情・主観の強調(口語的累加)
話し手の気持ちを繰り返して高めていきます。感情寄り。
📘 例:あのカフェ、落ち着いてるし、おしゃれだし、最高!
👉 (動詞「〜ている」形+し、形容動詞+し)
📘 例:この映画、感動するし、映像もきれいだし、観てよかった!
👉 (動詞+し、形容動詞+し)
番外編:言いさし・含意のある「〜し」
「〜し…」で終わることで、“他にもある”という余韻や不満を含ませます。
📘 例:あの人、ちょっとね…話長いし…。
👉 (形容詞+し)
📘 例:別に嫌いじゃないけど…あんまり関わりたくないし…。
👉 (動詞+し)
「〜し」に接続できる品詞4つ
「〜し」を付けて使える品詞は4つ(イ形容詞、ナ形容詞、動詞、名詞)あります。以下の表で、それぞれの品詞にどう接続するのか、接続形と例文を確認してみましょう。
品詞 | 接続形 | 例 |
---|---|---|
イ形容詞(形容詞) | 普通形(〜い)+し | 安いし、軽いし |
ナ形容詞(形容動詞) | 普通形(〜だ)+し | 静かだし、便利だし |
動詞 | 普通形+し | 働くし、食べたし |
名詞 | 普通形(〜だ)+し | 医者だし、学生だし |
👉 ポイント:ナ形容詞と名詞は、どちらも「〜だし」になりますが、語の種類は異なります。
イ形容詞:辞書形(〜い)+し
- 接続方法: 辞書形・終止形(〜い)+し
- 例:
安い → 安いし
軽い → 軽いし
👉 ポイント: 活用せずそのまま「し」をつけるだけなので、初級でも扱いやすい。
ナ形容詞 :辞書形(〜だ)+し
- 接続方法: 辞書形・終止形(〜だ)+し
- 例:
静か → 静かだし
便利 → 便利だし
👉 注意点: ナ形容詞は「〜な+名詞」となる一方、文末述語になるときは「〜だ」となる。その「だ」を経由する点を強調。
動詞:普通形+し
- 接続方法: 動詞の普通形(辞書形/た形/ない形など)+し
- 例:
働く → 働くし
食べる → 食べるし
行かない → 行かないし
寝た → 寝たし
👉 ポイント: 動詞は「普通形」にしてから「し」をつける。肯定・否定・過去のすべてに使える。
名詞:辞書形(〜だ)+し
- 接続方法: 辞書形・終止形(〜だ)+し
(ナ形容詞と同じように「だ」を加える) - 例:
医者 → 医者だし
学生 → 学生だし
👉 注意点: ナ形容詞と同じ「〜だし」なので混同に注意(例:「有名」はナ形容詞、「医者」は名詞)
よくある間違い!「きれいし」と言ってしまう誤用
日本語学習者のよくある間違いとして、「きれいし」「かわいいだし」と言ってしまう誤用があります。それについてはこちらの記事でまとめています。
「〜し」と似ている助詞の比較
このように、「〜し」には、理由や感情を並列に伝える便利な機能がありますが、実は似たような役割を果たす接続表現がいくつか存在します。ここでは、「〜て」「〜から」「〜ので」などと比較しながら、その違いを確認してみましょう。
接続助詞 | 機能 | 例文 | 違い |
---|---|---|---|
〜し | 主観的な評価・感情の列挙 | このバッグ、軽いし、可愛いし、雨にも強いし、気に入ってます。 | 主観的な評価を重ねる。気持ちが伝わる柔らかい表現 |
〜て | 客観的な状態・事実の列挙 | このバッグは軽くて、可愛くて、雨にも強いです。 | 事実を中立的に並列。説明的・無感情な印象 |
〜から | 明確な理由→結果 | 軽いから、このバッグを選びました。 | 単一の理由を論理的に提示。直接的で明快 |
〜ので | 丁寧な理由説明 | 軽いので、このバッグを選びました。 | 理由を丁寧に説明。配慮を含んだ語り口 |
導入タイミングと教え方
🌱 教える時期(導入レベル)
- 初級後半(N5〜N4)
- 『みんなの日本語Ⅱ』28課/『げんきⅡ』17課あたり
🎯 導入のポイント
- 「好きな理由を並べる」会話文から入るのが自然
- 例:「日本はどうですか?」→「ご飯が美味しいし、人も優しいし…」
🛠 活動アイディア
- 好きなものを「3つの理由」で紹介(評価の列挙)
- 否定文の応用(不満の列挙)
- 終止の「〜し…」を使った含意クイズ(「この後何を言いたい?」)
教材・参考リソース
- 📘 『できる日本語 初中級』:日常的な感情表現とセットで学べる
- 📗 『TRY! N4 文法から伸ばす』:理由表現との比較が豊富
- 🎯 自作カード活動:形容詞・動詞を使って文を自由に作る遊びにも!
✍️ まとめ
「〜し」は単なる“and”ではありません。評価を積み重ねたり、理由を重ねたり、感情をこめたりする、とても日本語らしい助詞だと改めて感じました。
同じ意味を伝える文でも、「〜て」「〜から」「〜ので」とは違い、話し手の視点や温度感を伝えるという役割があります。
学習者が「〜し」を使いこなせるようになると、会話の深みや自然さがぐっと増しますね✨
📌 授業での導入に迷ったら
- 「理由を3つ並べておすすめを紹介」させる
- 「感情的にモノを褒める/けなす」アクティビティに使う
- 「〜て」と「〜し」の言い換え比較でニュアンスの違いを伝える
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