こんにちは!ノマド日本語教師のコニ(@koni_bali)です。
日々何気なく使っている「おはよう」「こんにちは」「さようなら」などのあいさつ語。
それぞれの語源や歴史を調べてみると、実は意外なルーツや背景が隠れていることに気づきました。
中でも個人的に興味深かったのは、「ご苦労様」と「お疲れ様」のねぎらいの前提の違いです。また、古語表現やサムライ言葉の響きも凛としていて、かっこいいのです!
この記事が、日本語教師の方のちょっとした知識の引き出しや、生徒さんとの雑談のきっかけになればうれしいです。

目次
おはよう
語形変化:
「お早うございます」→「おはよう」へと略され、口語表現として定着。
語源:
「早いですね」を丁寧に表現した語。「お(丁寧語)」+「早う(よう/早くの連用形)」+「ございます(丁寧な存在表現)」の構成。
歴史:
もともとは武士が目下の者に対して使った朝の丁寧な挨拶。江戸後期には町人の間にも広まり、やがて同等・対等な関係でも使われるように。形式ばった挨拶から、現代のカジュアルな「おはよう」へと口語化。
古語例①:
「おはようにて候(そうろう)。」
(早くにお越しでございますね)
古語例②:
「おはようござりし頃に、門をたたき候。」
(朝早くに門をたたきました)
英語でいうと:
“Good morning.”
教える時のポイント
「おはよう」は、朝の定番あいさつですが、使用範囲や形式によっていくつかの注意点があります。
- 基本的な使用時間帯は、朝〜昼前(〜11:00頃)
- 丁寧な形は「おはようございます」であり、目上やフォーマルな場面ではこちらを優先
- 「おはよう」は 親しい間柄・カジュアルな場面に限定されることを説明
- 仕事においては、時間帯に関係なく使用可能(例:シフト勤務、夜勤の出勤時にも「おはようございます」を使う)

こんにちは
語形変化:
「今日(こんにち)はご機嫌いかがですか」→「こんにちは」へと省略・定型化。
語源:
「今日(こんにち )+は(係助詞)」という挨拶文の書き出しが元で、「今日という日はどうですか?」という相手の様子を問う丁寧語。
歴史:
もともとは昼間の来訪時や書状での礼儀的あいさつ。江戸時代以降、会話文にも取り入れられ、時間帯を問わない日中のあいさつとして定着。
古語例①:
「今日(こんにち)はようござったな。」
(今日はお越しいただきありがとうございます)
古語例②:
「今日(こんにち)はまことに結構な日和にて候。」
(本日はまことに良い天気でございます)
英語でいうと:
“Hello”, “Good afternoon.”
教える時のポイント
- 基本的な使用時間帯は、昼頃〜夕方前(11:00頃〜17:00頃)
- 「こんにちわ」で覚えないように教える
- 「こんにちわ」ではない理由:「こんにちは」の語末の「は」は、もともと 助詞の「は(係助詞)」 だから。現代日本語では、助詞「は」は「は」と表記するルール

こんばんは
語形変化:
「今晩はご機嫌いかがですか」→「こんばんは」へと短縮。
語源:
「今晩(こんばん)+は(係助詞)」で、「今晩は~ですね」の省略形。相手の様子を伺うあいさつ文の導入句が語源。
歴史:
もともと夜間の来訪時に用いる書状や口頭での丁寧な挨拶表現。町人文化の発展とともに口語でも広く使われ、夕方以降の定型的なあいさつとして定着。
古語例①:
「今晩はお静かに候か。」
(今晩はおだやかにお過ごしでしょうか)
古語例②:
「今宵(こよい)は月も見事にて候。」
(今夜は月も見事でございます)
英語でいうと:
“Good evening.”
教える時のポイント
- 基本的な使用時間帯は、夕方以降〜夜(17:00頃〜就寝前)
- 「こんばんわ」で覚えないように教える
- 「こんばんわ」ではない理由:「こんにちは」と同じ。語末の「は」は、もともと 助詞の「は(係助詞)」 だから。現代日本語では、助詞「は」は「は」と表記するルール

さようなら
語形変化:
「左様ならば」→「さようならば」→「さようなら」
語源:
「左様ならば(さようならば)」=「そうであるならば」の意味。「左様」は「そう、そのように」、「ならば」は「~であるなら」という接続表現で、もともとは相手の話や状況を受けて別れを切り出す丁寧な言い回しでした。口語では「さようならば」→「さようなら」と短縮されて定着しました。
歴史:
「さようなら」は、もともと別れ際に使われる定型の別れ言葉として、武家や貴族の挨拶文・書簡の末尾などでも見られました。特に、「では失礼します」や「そのようなわけで、これにて」という意味合いが強く、儀礼的で慎ましやかな別れの言葉とされていました。その後、町人文化や教育制度の普及により、近代以降は日常語として定着し、学校や職場などでも広く使われるようになります。
古語例①:
「左様ならば、これにて御免(ごめん)。」
(それでは、これで失礼いたします。)
古語例②:
「さようならば、またの機(き)に候。」
(それでは、またの機会にお会いしましょう。)
英語でいうと:
“Goodbye.” / “Farewell.”(やや改まった別れ)
教える時のポイント
「さようなら」は、やや改まった印象のある別れのあいさつ語であり、現代では使われる場面に特徴があります。
- 「さようなら」は、現代では日常会話での別れにはあまり使われず、「じゃあね」「バイバイ」などのカジュアル表現が主流であることを伝える
- しかし、学校教育では、「先生と生徒」の別れのあいさつとして定着しており、教室での場面表現にはよく登場する
- 英語の “Goodbye” に当たる言葉として教えられがちだが、使用頻度や場面が限られることを学習者に伝えておくと誤用を防げる
- 感情のこもった別れ(転校、退職など)では「さようなら」が改まった印象を与えるため、フォーマルな別れの表現として教える

ご苦労様
語形変化:
「ごくろうであった」→「ご苦労様」へと定型化。
語源:
「労(ろう)をねぎらう」意。「苦労(くろう)」+敬語の接尾語「様(さま)」。相手の骨折り・働きに対して敬意や感謝を表します。
ニュアンス:
もともとは目上の者が目下に向けて、務めを終えたことをねぎらう表現として用いられてきました。しかし、その任務をするための「苦労」や「骨折り」は、主従関係の契約によって当然に担われるものであり、そこに不均衡な利害関係(してもらった/申し訳ない)があるわけではありません。つまり、「ご苦労様」は、“(やって当然の)任務や仕事の完了をねぎらう” という意味があります。
古語例①:
「ご苦労にて候(そうろう)。」
(ご尽力いただき、感謝申し上げます)
古語例②:
「長途(ちょうと)の御足労、まことにご苦労に存じ候。」
(長旅のご足労、まことにありがたく存じます)
英語でいうと:
“Thank you for your effort.” または “Good work.”(上司→部下など)
教える時のポイント
「ご苦労様」は、もともと目上の立場の人が、目下に対してその働きをねぎらう言葉として使われてきました。そのため、現代でも「上司が部下に使うのは自然」ですが、「部下が上司に対して使うと失礼」と受け取られる場合があります。教える際のポイントはこちら。
- 「です」を付けて「ご苦労様です」で使用するのが一般的(ご苦労様だけだと偉そうな印象)
- 「ご苦労様です」は 上下関係がある場面(上→下) で使われやすい
- 「ご疲れ様」との違いを説明。対等・共感の「お疲れ様」と、上から下への「ご苦労様」両方教える
- ビジネス日本語では「お疲れ様」を優先的に使うよう指導
- 敬語を使っているつもりで、目上の人に「ご苦労様」と言わないように説明

お疲れ様
語形変化:
「お疲れであった」→「お疲れ様」へと定型化。
語源:
「疲れた」状態に敬意を添える表現。
「疲れ(つかれ)」+ 敬語の接尾語「様(さま)」で、相手の心身の労苦や消耗に対して共感とねぎらいを示す言葉です。
ニュアンス:
ここで重要なのは、「ご苦労様」が “相手の苦労”を当然のものとして評価するのに対して、「お疲れ様」は“相手の疲れ”に着目している点です。つまり、「お疲れ様」は、相手の疲れに寄り添うような視点を持ち、より感情的な共感のニュアンスが強い表現といえます。
このため、「お疲れ様」は、話し手も聞き手も同じ現場・同じ環境に関わっている「同じ立場のメンバー」という状況で自然に使われることが多いです。歴史的には目上に対して使わない方がいいとされていますが、現在は上下関係を問わず使える労いの表現に変化しつつあるようです。
歴史:
武家言葉や宮中表現にルーツを持ちつつ、江戸後期以降、町人社会や近代職場にも広がり、明治以降は広範な階層で使われる一般語へと変化しました。現在では、職場、学校、家庭など、さまざまな共同作業の場で日常的に用いられています。
古語例①:
「御労れにて候(おつかれにてそうろう)。」
(ご苦労なされて、お疲れのことと存じます)
古語例②:
「このたびの道中、さぞお疲れにて候。」
(このたびの道中、さぞお疲れのことと存じます)
英語でいうと:
“Thank you for your hard work.” または “You must be tired.”(状況による)
教える時の注意点
「お疲れ様」は、相手の疲れに共感し、ねぎらう気持ちを伝える表現で、現代では上下関係を問わず幅広く使える便利なあいさつ語です。
ただし、歴史的には目上の人に対して使うことが避けられていた時期もあり、今でも一部の職場や年配者の間では「部下が上司に使うのは好ましくない」と考える人もいます。そのため、学習者には次のように教えるとよいです。
- 「です」を付けて「お疲れ様です」で使用するのが一般的(お疲れ様だけだと偉そうな印象)
- 一般的には「お疲れ様です」は安全で丁寧な表現
- ただし、目上の人に使うときは職場の文化によって受け止め方に差がある
- 「ご苦労様」との違いを説明。対等・共感の「お疲れ様」と、上から下への評価の「ご苦労様」という視点で比較

すみません
語形変化:
「すまぬ」→「すみませぬ」→「すみません」→「すいません」へと変化。
語源:
連用形「すま」(済む)+打消の助動詞「ぬ」。意味は「気持ちが済まない」、=「申し訳ない」「済まない(すまない)」
「すいません」は「すみません」を言いやすくした形。「み」の脱落(イ音便)が起こって、Sumimasen → Suimasenとなりました。「すんません」「すんまへん」なども同様の派生形です。
歴史:
「すみません」の語源である「すまぬ」は、すでに江戸時代の文献において、「気が済まない=申し訳ない」という意味で使われていたことが確認されています。これは「済む」の打ち消し形によるもので、謝罪の意を表す表現としての基盤がこの頃にはすでに存在していたと考えられます。
現代日本語では、「すみません」はすでに多機能なポライトネス表現として確立されており、謝罪・感謝・依頼・呼びかけ・前置きなど、さまざまな文脈で活躍する表現です。その背景には、相手の負担に対して先回りして配慮を示すという、日本語独特の対人コミュニケーション様式が深く関係しています。
古語例①:
「御無礼つかまつり、誠にすまぬことで候。」
(失礼してしまい、誠に申し訳ありません。)
古語例②:
「かかる折に申しつかまつり、すまぬことに候。」
(このような時に申し上げるのは心苦しいことでございます。)
英語でいうと:
“I’m sorry.” / “Excuse me.” / “Thank you.”(文脈によって異なる)
教える時の注意点
「すいません」は、「すみません」の口語的な形で、謝罪・感謝・呼びかけ・依頼など、さまざまな場面で使える非常に柔軟な表現です。
ただし、使用範囲が広いために、学習者が本来の目的に合わない使い方をしてしまうことがよくあります。指導時には、以下の点に注意するとよいです。
- 「すいません」はカジュアルな口語表現であり、親しい人との会話や日常場面に適している
- フォーマルな場面や、目上に対して使う場合は「すみません」を優先
- 謝罪、感謝、呼びかけ(=Excuse me)など、文脈によって意味が変わるため、 「I’m sorry」「Thank you」「Excuse me」などと英語でどう使い分けられるかを例で示すと効果的
- どんな時に「ありがとう」の代わりに「すいません」を使えるか、感謝か謝罪か、使用意図を意識させる

よろしくお願いします
語形変化:
「よろしく頼みます」→「よろしくお願いいたします」→「よろしくお願いします」へと丁寧化・定型化。
語源:
「よろしく」は、古語の形容詞「由(よ)ろし(=好ましい、ふさわしい)」の連用形。
もともとは「うまくいくように」「良い形で頼む」といった意味合いを持ちます。
「お願いいたします」は謙譲語で、自分の願いをへりくだって伝える丁寧な言い回しです。
歴史:
古くは書簡などで「よろしくご伝言くださいますよう」などの形で使われており、
儀礼的・依頼的な文語表現としての役割が中心でした。
やがて口語表現にも浸透し、現代ではあいさつ語・依頼語・締め言葉として広く用いられています。
現代のニュアンス:
「よろしくお願いします」は、依頼、感謝、あいさつの意味が一体となった**日本語特有の“協調的表現”**です。
英語ではひとことで訳せないニュアンスを含み、「初対面のあいさつ」「ビジネス文書」「お願いごと」「別れ際のしめ」など、さまざまな場面で活躍します。
古語例①:
「末永く、よろしくお頼み申し上げ候。」
(これからも末永く、よろしくお願いいたします)
古語例②:
「一重に、よろしきを得んことを願い申し候。」
(何とぞ、円満に進むことを願っております)
英語でいうと:
“Nice to meet you.” / “Thank you in advance.” / “Please take care of this.”
(使い方によって訳し分けが必要)
教える時の注意点
「よろしくお願いします」は、あいさつ・依頼・感謝・締めの言葉として多目的に使える便利な表現です。
その一方で、「何をよろしくするのか」が明示されていないため、学習者には意味が分かりにくく感じられることが多い表現でもあります。
- 「よろしく」は、「良いように」「円満にうまくやってください」という抽象的な願いのことばであることを伝える
- 具体的な場面に応じて、「Nice to meet you」「Please take care of this」「Thanks in advance」などと訳し分ける必要があることを示す
- あいさつや依頼の最後に使う形式的なフレーズとして定着しているため、「意味は曖昧でもよく使う“定型句”である」ことを理解させると、受け入れやすくなる
- 「よろしくお願いします」に至るまでの会話例や依頼する内容とセットで使う練習をする
✍️ まとめ
日本語のあいさつには、それぞれに独自の語源や歴史、言葉の変化があります。
日常的に使っている「おはよう」や「こんにちは」も、実は武家社会や敬語表現の中から生まれた文化的背景があり、その成り立ちを知ることで、より深く日本語を理解する手がかりになります。
特に「ご苦労様」と「お疲れ様」の使い分けは、日本語教師にとっても教える際の重要なポイントです。言葉の背景を伝えることで、生徒さんも興味を持って勉強でき、理解も深まると思います!
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